首席指揮者ピエタリ・インキネン 10/18 東京定期アフタートーク

首席指揮者ピエタリ・インキネン  
10/18 東京定期アフタートーク

 

舩木(以下略):本日聴き手を務めさせていただきます。舩木篤也です。どうぞよろしくお願いいたします。通訳は井上裕佳子さんです。短い時間ですけれども、いくつか気になる点をお聞きしていこうと思います。まずはベートーヴェンですよね。インキネンさんにとってベートーヴェンはどんな作曲家ですか。

 インキネン(以下略):ベートーヴェンは私にとっても金字塔といってもよい作曲家です。これは西洋のクラシック音楽の基礎を築いてくれた方といっても過言ではないと思います。そして彼の天才的な能力をもって西洋音楽をさらに進化させた素晴らしい方で、様々な革新的なことをもたらしました。我々音楽家にとってはなくてはならない作曲家です。

 

このツィクルスは来年がベートーヴェン生誕250年ということでそれを中心にして2期、2021年まで続けるわけですけれども、まず今日第1回で、英雄交響曲を最初に持ってきた理由はなんでしょう。

 実際このツィクルスは2シーズンに分けて演奏していきます。私は過去に、もっとコンパクトな形で演奏したこともあります。これをもし連日連夜ということであれば1番から始めたと思いますが、2シーズンにかけてということですので、非常に多様的なプログラムにしたいと思いました。ベートーヴェンだけを演奏するわけではありません。そして《エロイカ》から始めた理由というのは、古典派の音楽から、ベートーヴェンによりロマン派の音楽へと向かうのですけれども、その中で一番大きな交響曲ですので、これを1番最初に選びました。

 

となるとベートーヴェンの時代だけではなく、そのあとのベートーヴェンが影響を及ぼした時代のこともこのツィクルスの中に組み込もうということなのですね。

 もちろんです。もしツィクルスをコンパクトな形で演奏するのであれば、この進化というのが早くわかると思うのですが、2シーズンをかけますので、コアなファンの皆様たちには進化、時間の流れ方を感じていただき、ベートーヴェンが影響した時代の音楽も一緒に楽しんでいただければと思います。

 

このツィクルスにはドヴォルジャークが何曲か入っているのがとても目を引くんですね。今日は《アルミダ》というオペラの序曲を演奏されましたが、私が思うのは、ドヴォルジャークというのは意外に気が付かれてないかもしれませんが、ワーグナーからの影響がとても大きい。インキネンさんがワーグナーを得意とされているのは皆様ご承知だと思いますが、そういうこともあるのかなあ、と少し思いました。

 序曲を《レオノーレ》などで始めなかった理由はいくつかあります。ドヴォルジャークはあまり演奏されない曲がたくさんあります。ですが私が今プラハの交響楽団と一緒に仕事をしていて彼らたちから学ぶことが本当にたくさんありました。そしてドヴォルジャークはドイツ放送交響楽団でもレコーディングをしているので、日本フィルともぜひ共演したいと思いました。そしてドヴォルジャークというのはいろいろな人の影響を受けており、ブラームスも非常に大きな影響を与えています。今日の曲もそうですが、ワーグナーの影響もとても感じられます。ワーグナーはご存じの通りベートーヴェンの第九に大きな影響を受けています。

 

ワーグナーといいますと、皆さんお気づきかと思いますが、インキネンさんは来年2020年にバイロイト音楽祭で《ニーベルングの指環》で指揮をすることが決定いたしました。このような時間を共有できる機会はめったにないことですから、後半はバイロイトにかける意気込みなどを聞いてお祝いをしたいなと思います。最初にその知らせをもらった時は、最初に何をなさいましたか?

 実は日曜日の夜で夕食の用意をしていました。その時に電話があり、向こうの方が、「お願いですからちょっと座っていただけますか」と。その時に「短い返事でいいから」と一言言われたんです。私も長年指揮をしていますし、もちろんワーグナーの曲も指揮をしています。《指環》もすでに数回指揮をしていますが、そういう活動をしていると、ある時点で胸の中に夢というものが芽生えます。いつかバイロイトでワーグナーを指揮できたら素晴らしいだろうな、と思ったことはあるのですが、それが今日、今、しかも《指環》と言われたんです。

 

バイロイト音楽祭については皆様ご存じかと思いますが、簡単にご説明しますと、リヒャルト・ワーグナーが自分の作品を理想の形で上演したいということで、ドイツの南にあるバイロイトという小さな町に自分の劇場を建てたわけです。これが1876年(明治9年)にオープンしまして、それ以来ずっと戦災にも焼けずに残って、毎年ワーグナー音楽祭を行っているわけですね。《指環》の今までの歴代指揮者を考えますと、第2次大戦後だけ見てもクナッパーツブッシュ、カイルベルト、ベーム、ブーレーズ、バレンボイム、そして最近ですとペトレンコも振りましたけども、そこへピエタリ・インキネンさんが来るわけですよね。ご自分は今までのワーグナーとここが違うぞ、というところがありましたら、どうぞアピールなさってください。

 もちろん今日の《エロイカ》が他の《エロイカ》と違ったように、私の演奏というのは自分がこういう風に聴きたいという音楽を生み出すので、私のテイストにかかっていると思います。ですが《マイスタージンガー》のメッセージと同じように、過去を尊重したうえで進化をするべきだと。他の人と違うことをするがために、ただ違うことをするというのは私は違うと思います。そしてここにいる大勢の方たちもやはりワーグナーをいろいろ聴かれていると思いますが、私が指揮をした後、それがどうだったか、どう違ったか教えていただきたいと思います。私のやり方としては、過去と比べてこうしよう、ではなくあくまでもスコアと向き合って、自分の進化、今のワーグナーはこうあるべきだという考えから音楽づくりをしていきます。私の今までの経験もありますが、実際にピットに入る音楽家たち、ステージの上で歌う歌手たち、その方たちの能力、経験というものも生きてきます。ですので、みんなで一丸となって音楽づくりをしていきます。もちろん私はオーケストラに影響を与えることはできると思いますが、みんなで音楽は作っていくもので、どうなるか私も今から楽しみにしています。

 

舩木:ワーグナーはオペラ、舞台作品の作曲家ですけれども、意外にも、と言いますか、自分はベートーヴェンの交響曲を発展させてこういう作品を書いたんだとワーグナー自身はおっしゃっています。インキネンさんはこれからワーグナーとベートーヴェンを並行してなさることになるのですが、とっても良い組み合わせだなと思っています。いずれバイロイトのご経験もこちら日本フィルでさらにフィードバックといいますか、その成果を聴かせていただけることを期待しております。残念ながら時間となりましたので、最後に期待を込めて大きな拍手をいただければと思います。

聞き手:舩木篤也
通訳:井上裕佳子

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